京都大学 学際融合教育研究推進センター

リプロダクティブ・ヘルス&ライツ
ライトユニット

Reproductive Health and Rights Light Unit - SRHR.JP

連載:わたしのからだだから第6回「からだの自己決定権」を政治経済、法律、教育の角度からみてみよう。

京都大学リプロダクティブ・ヘルス&ライツライトユニットでは、UNFPA(国連人口基金)の依頼で世界人口白書2021の翻訳協力を行いました。この翻訳を行う上で、白書の中で強調したい点や日本における性と生殖に関する健康と権利(SRHR)との関係についてコラム形式で連載します。

「からだの自己決定権」の獲得にはジェンダー平等が不可欠、
だけどお金が足りません。

ジェンダー平等に向けた資金配分や投資は不十分

ジェンダー平等の実現のためには政府が主導していく必要があり、様々な条約に定められた義務を果たすことで、ジェンダー差別的規範やそれを助長する社会的・政治的・制度的・経済的構造を変えることができます。
しかしながら、多くの国でジェンダー平等に向けて十分に資金配分をしていなかったり、投資されてなかったりします。そのために、ジェンダー平等に向けた行動計画や機関は慢性的な資金不足に陥っています。
十分で、しかも継続した資金が確保できれば、女性が生涯にわたって直面するリスクや脆弱性に対処できるようになります。

「ジェンダー予算」とは

「ジェンダー予算」とは、歳入と歳出から成る「公共予算」をジェンダーの視点から分析し、それが女性と男性それぞれにもたらす影響を把握しようとするものです。第4回世界女性会議 行動綱領で重要戦略と位置づけられました。
財政,金融等の経済政策など経済的な意思決定に,女性は参加していなかったり、していても不十分な状況があります。その結果、男女間の格差や不平等が継続・拡大していたことが認識されています。また、経済合理性の面でもジェンダー視点のない予算は、公共予算の分配を非効率的にすると認識されています。

ジェンダー予算は、次の3つの領域から分析されます。
①ジェンダー問題あるいは女性のために、割り当てられた支出
 DV、性犯罪、妊娠、出産、生殖医療、女性特有の病気など
②ジェンダー機会を平等に確保するために割り当てられた支出
 乳幼児の健康、介護、子育て、教育、地域活動など
③女性と男性双方を対象とした一般的支出
 雇用、ひとり親家庭、農業、都市計画など

(参考 内閣府男女共同参画局:第4回世界女性会議 行動綱領(総理府仮訳)
    大崎麻子:ジェンダー主流化の20年(7)~ジェンダー予算の例①~.共同参画.117:11,018)
1995年9月に北京で開催された第4回世界女性会議が開催され、「北京宣言」及び「行動綱領」が採択されました。「北京行動綱領」は、女性の人権に関する国際文書であり、女性のエンパワーメントに関するアジェンダとして12の重大問題領域が設定されています。

OECDによると、加盟34か国のうちほぼ半数の15か国が導入し、日本でも導入しています。しかしながら、日本ではジェンダー予算を支える法的規定はなく、高いレベルでの政治的関与や慣習によって支えられています。
(参考 OECD:Public Governance and Territorial Development Directorate Gender Budgeting in OECD countries. OECD Journal on Budgeting Volume 2016/3. https://www.oecd.org/gender/Gender-Budgeting-in-OECD-countries.pdf)

「からだの自己決定権」には男性の変化だけでなく、
法律など環境面の整備も必要。

女性の自己決定ができる機会が増えたら、継続ができる体制が必要

「からだの自己決定権」の実現にはこれまでのしきたりや規範が変化し、男性も育児や介護を担い、女性が自己決定できる機会を増やすことが必要です。そのためには、男性の意識や行動を変えるだけでなく、その変化が現実のものになり継続できるように、その変化が現実のものになり、継続できるようにインフラや家事などのサービスを手ごろな価格で利用できるなどの環境面の整備が必要です。

日本の憲法に定められたジェンダー平等

女性の自己決定できる機会が増えたら、その選択が保障される法律が不可欠です。しかし、191か国の憲法に平等や差別の撤廃に関するいくつかの条項があるにもかかわらず、わずか24か国の憲法でしか、女性の権利に関する条項を定めていません。
日本はこの24か国中の、ひとつです。

日本では、憲法第24条で「家族生活における個人の尊厳・両性の平等」として、成立当時にはまだ珍しかった男女平等の規定があります。その原文を作成したのは少女時代を日本で過ごし、日本国憲法制定前の日本の現状を知っていた、ベアテ・シロタ・ゴードンという女性だったというエビソードもあります。
憲法以外のジェンダー平等に関わる法律に関しては、こちらもぜひご覧ください。

(参考 光谷香生子:憲法とジェンダー~日本国憲法をくらしに活かすために~.しまねの女と男.公益財団法人しまね女性センター.34:2-3,2013)

教育は「からだの自己決定権」において、男女ともに重要。

包括的性教育は幼児期から受けることで互いに尊重した関係性の構築につながる

教育も重要です。高い教育を受けた女性ほど、避妊やヘルスケアについて自ら判断することができ、望まない性行為を断ることができるといわれています。
包括的性教育はセクシュアリティを精神的、心理的、身体的、社会的側面で捉え、カリキュラムを基盤にした教育のことです。また、包括的性教育を幼児期から受けることは若年青年期の自己決定を促し、互いに尊重した関係性を持つことにつながります。包括的性教育を受けることが性行為を早めることにはつながりません。

しかし、75か国中で包括的性教育を義務付けているのは3分の2程度です。ジェンダー規範の変化は少女にとって収入がより高く、やりがいある仕事につくことができるなど、さらなるエンパワーメントや自立につながります。その意味でも教育は非常に重要といえます。

日本における教育の基盤となっている学習指導要領では妊娠の経過(性行為や避妊)については取り扱わないこととされています。性教育を何歳から始めるのか、学校で何を伝えるのか、家庭で何を伝えるのか、議論がされています。ぜひこちらもご覧ください。

横の連携が力の結束につながり、男性の健康にも貢献する

女性へのエンパワーメントには横のつながりがその強化につながる。

女性のエンパワーメントと権利を守る団体やその活動は非常に多彩で、多くの知識をもっています。しかしながら、団体や活動が互いに十分に連携できているわけではありません。昨今、活動家はハラスメントや暴力、ネットバッシングの対象になることが増えています。その実態に対しても、互いに連携しあえば、共通の課題に対して団結し、抵抗勢力により力強く対応することができます。

みんなで取り組むジェンダー平等は男性の健康にもメリットがある。

ジェンダー平等の実現は男性の健康面にもメリットがあります。具体的には死亡率やうつ病リスクの低下、暴力による死亡リスクの減少が報告されています。男性の意識や行動が変わり、ジェンダー平等の知識を広めることができれば、不平等な権力関係や差別的な社会規範を変えることができます。このような取り組みは男性だけを対象にするより、老若男女が一緒に取り組むことが効果的ともいわれています。

ジェンダーギャップ指数にみる日本の課題

世界経済フォーラム(WEF)による最新の「ジェンダーギャップ指数2021」が2021年3月31日に発表されました。日本は調査対象だった世界156カ国の120位でした(前年121位)。
ジェンダーギャップ指数は、経済・教育・医療・政治の4分野14項目のデータで、各国の男女の格差を分析した指数です。純粋に男女の差だけを評価をしていることが、この指数の特徴です。

日本の課題は順位に表れており、医療65位、教育92位、経済117位、政治147位と、医療や教育の水準に比べて政治経済への女性の参画が低いことが課題となっています。

(参考 泉谷由梨子 ジェンダーギャップ指数2021、日本は120位 G7最下位は変わらず低迷.2021年3月31日https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6062cdc4c5b65d1c2818ac86 )

以上のように、「からだの自己決定権」の実現は様々な要素が関係しています。

政治、経済、法制度、教育など多面的に関わる機関や人々との連携が不可欠です。
今後人口減少が予測される日本においても、急いで取り組むべき課題といっても過言ではないでしょう。
何らかのきっかけで課題が明るみになり、一時的に議論されるのではなく、継続的かつ建設的な議論と変化が期待されます。

執筆:荒木智子(京都大学SRHRライトユニット/大阪行岡医療大学)

投稿:2021年07月10日