京都大学 学際融合教育研究推進センター

リプロダクティブ・ヘルス&ライツ
ライトユニット

Reproductive Health and Rights Light Unit - SRHR.JP

SRHRとは

SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)とは

セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(Sexual Reproductive Health and Rights:SRHR)とは、「性と生殖に関する健康と権利」のことです。と言われても、あんまりピンとこない人が多いと思います。しかし、国際的には基本的人権のひとつと考えられています。

SRHRにおいて大切なことはたくさんあります。自分のセクシュアリティのこと。子どもを持つか持たないか、いつ持つかに関して、すべての人が自分で決められること。セックスをすべての人が安心して楽しめること。そのために、避妊の方法や不妊治療について全員がちゃんと知っている世の中であること。生殖器が知らない間に病気に侵されていたら選択肢が狭くなってしまうので、生殖器のがんや感染症の予防や治療ができること。子どもを産んだら苦労する世の中だったら、選択肢を狭めてしまうので、母子保健や育児支援。SRHRは、これらすべてを大切にする理念のことです(Lancet 2018;391:2642-92)。

もっと分かりやすく

・セクシャル/リプロダクティブヘルス&ライツは、自分のからだや自分の人生は自分のもので、誰かに強制されるものでもないし、誰かのために捧げるものでもない、という当たり前のことを当たり前に保証しよう、という理念です。
・どんな人を好きになるか、子どもを持つか持たないか、どんな人生を歩むか、を自由に決めるためには、自分とどんなふうに付き合い、人とどんなふうに付き合うか、知識や態度、技術も必要です。性意識や性的指向に多様性があることや生殖器、妊娠の仕組みや、病気の予防についてちゃんと知っておくことも大事です。

SRHRの起こりとその背景

1970〜80年代、世界は人口爆発に怯えていました。人口が増えすぎると食糧難になり、公害が増え、貧困や病気の蔓延が解決しない。だから、一時は強制的ともいえる避妊プロジェクトが進められていました。しかし、それは果たして民主的なのか、という懸念が広がりました。
1994年にカイロで行われた国際人口開発会議(ICPD)で、求められているのは「教育と健康になるための手段を提供すること」「ジェンダー平等の実現による女性のエンパワメント」ということに、世界が合意しました。そうして定義されたことばが、リプロダクティブ・ヘルス&ライツなのです(UNFPA Unfinished Buisiness)。

2002年には、世界保健機関(WHO)がセクシュアルヘルスという言葉を定義し、リプロダクティブ・ヘルス&ライツと非常に密接に関わることから、SRHRとひとまとめにされるようになりました。(https://www.who.int/reproductivehealth/publications/sexual_health/defining_sexual_health.pdf WHO 2002) また、国連では、2000年から2015年までの達成目標としてMillenium Development Goals(MDGs)を作成しました。当初はSRHRという言葉こそ入っていませんでしたが、8つのゴールのうち実に4つがSRHRに関連した内容になっています。背景には、2002年時点で、「安全ではない性交渉」が途上国で2番目、先進国で9番目にランクインしていたことがあります(1番目だったのは途上国では「やせ」、先進国では「たばこ」でした)(Lancet 2002;360:1347-60)。

SRHRという言葉がうまれて、それまであまり見えていなかった課題も見えるようになりました。女性性器切除(Female Genital Mutilation:FGM)はアフリカや中東、アジアの一部の国々で行われる伝統的な慣習です。クリトリスを切除するtype1から、大陰唇まで全部削ぎ落とすType3までいろいろですが、何の医療知識も持たない人が、麻酔もなく、簡易的なカミソリの歯をつかって10歳前後の女の子の性器を切除していることが多く、出血や痛みによるショック、感染症、その後の月経痛や繰り返す尿路感染など、様々な健康の害を生みます。いま、様々な国際組織がSRHRの観点からFGMの撲滅を訴えています。しかしFGMをしていないとお嫁に行けない、という文化背景が根強いことからいまも多くの国で行われています。

また、産後の瘻孔(Obstetrics Fistula)も注目されるようになりました。児頭骨盤不均衡や回旋異常などのために、子宮収縮があるにもかかわらず分娩停止がおこったとき、日本ではすぐに吸引分娩や帝王切開といった方法で急遂分娩をしますが、近代的医学知識を何も持たない伝統的な産婆さんしか付き添ってくれない地域では、そういった急遂分娩に行きつきません。長い時間そのままでいると、赤ちゃんが障害をもったり亡くなったりしてしまうだけでなく、産道が阻血になり、組織が壊死して、尿道と膣口の間に瘻孔ができてしまいます。これが産後の瘻孔です。尿が膣から垂れ流れることで、離縁されて路上生活を余儀なくされる女性も多く、いま、たくさんの国際組織が産後の瘻孔の修復手術のボランティアを実施しています。

SRHRは途上国だけでなく、先進国にもいろいろな変化を生みました。欧米の多くの国で、思春期のSRHサービスは無料です。安全な性交渉についてのカウンセリングや、性感染症の検査、ピルやコンドームなどは無料で手にはいります。性暴力被害者支援や犯人逮捕のための捜査も多くの国でワンストップで行われていますし、セックスカウンセリングや骨盤・骨盤底筋のリハビリテーションなども盛んです。

そして、2015年から2030年までの目標として、Sustainable Development Goals(SDGs)が制定されました。ターゲット3.7には「2030年までに、家族計画、情報、教育を含む性とリプロダクティブ・ヘルスケア・サービスへの普遍的なアクセスを確保し、リプロダクティブ・ヘルスを国家戦略とプログラムに統合する。」とありますし、ターゲット5.6には「カイロのICPDや北京会議、並びにそれらのレビュー会議の成果文書に従って合意された、性と生殖の健康及び生殖の権利への普遍的なアクセスを確保する。」とあります。

日本のSRHRの現状

日本は1948年に世界に先駆けて人工妊娠中絶が合法化されました。「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」法律であって、人権や女性の権利を守るという意味合いは薄かったのですが、それでも、女性が生きる上で中絶が合法であるということは大きなことです。

現在、世界では3回の妊娠に1回が人工妊娠中絶されています。望んだときに妊娠できるためには、社会規範や性教育、ジェンダーの平等など、まだまだいろんなハードルがあるということです。人工妊娠中絶が法律で禁止されていると、見えないところで中絶を試みる人が多くなります。実に、10回の妊娠に1回、危険な方法での中絶がなされています。膣内にハーブを詰めたり、膣口から子宮に向かって盲目的に何かを突き刺したり、危ないことがたくさん起こります。当然亡くなる女性も多く、世界の母体死亡の13%が危険な中絶による死亡といわれています。中絶が合法であるということは、とても重要なことです。
日本では早くから中絶が合法であったこと、特に大きな政策を動かさずともコンドームが広く流通したことにより、SRHRへの機運が高まりませんでした。いまでもSRHRという言葉さえ広く知られているわけではありません。
1960年代に初めてホルモン剤の避妊薬が開発されて以降、注射剤や内服剤、貼付剤(シール)や膣内リング、インプラント、薬剤付加IUDなど様々な種類のホルモン的避妊薬が開発されましたが、そのほとんどが日本に入ってきていません。
他の多くの国ではSRHサービスは一般プライマリケア現場で提供されているのですが、日本では一部を産婦人科でのみ提供されているかたちになっています。

性教育については、国際的には「包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education:CSE)」が推奨されており、単に身体の仕組みやSRHRについてのみならず、自分とどう付き合うか、人とどう付き合うかなど、子どもの人権を尊重した教育や学習がすすめられています。しかし、日本では2003年の七生養護学校事件以降、学校での性教育はタブー視されてしまいました。七生養護学校では、知的障害を持つ児童に明るく分かりやすく性について教える独自の授業を行なっていましたが、そこに都議会議員が「不適切」と糾弾したことで学校が厳重注意処分を受けました。その後、2010年に最高裁判所で学校側は勝訴しましたが、この事件のために、学校側が性教育に関して萎縮してしまったことは否めません。現在の学習指導要項では、歯止め規定により「人の受精に至る過程は取り扱わない」つまり、性交については教えない、ということになっています。

日本のSRHRのこれから

先述の通り、日本もSDGsのターゲットを2030年までに達成するべく動き出す必要があります。
性教育については、2021年2月現在、学校内外で様々な取り組みがなされています。性についての正しい知識を得られるWebサイトも増えていますし、地上波テレビやインターネットテレビなどでも性教育をテーマにしたニュース、バラエティ、ドラマなどがたくさん放映されています。学校でも、令和3年から「生命の安全教育」が段階的に全国の学校で実施されることになりました。

性と生殖に関する健康と権利の統合的な定義(Lancet 2018; 391: 2642–92)

性と生殖の権利

  • 自分のからだは自分のものとして、プライバシーや自主決定権が尊重されること
  • 自分のセクシュアリティに関して、性的指向や性自認、その表現も含め自由にきめられること
  • 性交渉を開始するかどうか、いつするか、決めることができること
  • 性交渉の相手を選べること
  • 安全で喜びのある性経験をもつこと
  • どこでいつだれと結婚するか決めることができること
  • こどもをもつかもたないか、いつもつか、なぜ持つか、また何人もつかを決められること
  • 上記全ての権利を得るために必要な情報、資源、サービス、支援を生涯にわたって得ることができ、差別や強制、搾取、暴力が無いこと

性と生殖に関する健康についてのサービス

  • 科学的根拠に基づいた包括的性教育など、性と生殖の健康に関する正しい情報やカウンセリング
  • 性の仕組みとその満足についての情報カウンセリング、ケア
  • ジェンダーに基づく暴力や強制の、予防・発見・マネジメント
  • 安全で効果的な避妊法の選択肢
  • 安全で効果的な妊娠、出産、産後のケア
  • 安全で効果的な中絶の提供とケア
  • 不妊の予防・マネジメント・治療
  • HIVや生殖器の感染を含む性感染症の予防・発見・治療
  • 生殖器のがんの予防・発見・治療
執筆:池田裕美枝
編集:髙木大吾