SRHR Initiative(研究会)旧SRHRライトユニット

Sexual Reproductive Health and Rights Initiative

連載:わたしのからだだから第3回 からだの自己決定権をエンパワーする法律と抑圧する法律

京都大学リプロダクティブ・ヘルス&ライツライトユニットでは、UNFPA(国連人口基金)の依頼で世界人口白書2021の翻訳協力を行いました。この翻訳を行う上で、白書の中で強調したい点や日本における性と生殖に関する健康と権利(SRHR)との関係についてコラム形式で連載します。

世界人口白書2021第5章図8を引用

法律にはからだの自己決定権を守ってくれるものもあれば、逆にそれを奪ってしまうものもあります。世界人口白書2021第5章やSDGsグローバル指標5.6.2で取り上げられている法律や制度を中心に、日本での例を見てみましょう。(上記画像は世界人口白書2021日本語抜粋版図8から引用)

からだの自己決定権をエンパワーする法律や制度の例

自己決定権:日本国憲法第13条(個人の尊重と生命、自由、幸福追求に対する権利)

男女平等:日本国憲法第14条(法の下の平等)、第24条(男女平等)

すべての人が本人の同意の下で医療サービスを受けられることを保障する法律や制度:日本国憲法第25条(生存権)、医療法、国民皆保険制度

家庭内暴力(DV)を犯罪と定めている法律:刑法第204条(傷害罪)、第208条(暴行罪)等

DV被害者を保護するための法律:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)

配偶者間レイプを犯罪と定めている法律:刑法第177条(強制性交罪)

マタニティケアを保障する法律:母子保健法

HIV感染症・エイズ治療体制に関する法律:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)

からだの自己決定権について矛盾した法律や制度が併存している例

性的同意年齢と、親権者の同意無しに特定のサービスが受けられる年齢

この2つの年齢が一致していないということは、思春期の若者が、合法的に安全な性行為や避妊に関する情報やサービスにアクセス出来るようになる前に、合法的に性交渉が許されるという状況が生じ得るということです。

  イタリア ジャマイカ マレーシア ポーランド 日本
法的婚姻年齢 18 18 18 18 18(*)
親権者・司法等の同意の上での婚姻年齢 16 16 16 16 18(*、同意は不要)
性的同意年齢 14 16 16(女子のみに適応) 15 13
親権者の同意無しでの中絶可能年齢 18 18 18 18 18(*)
親権者の同意無しでの緊急避妊薬の入手可能年齢 14 16 18 18 18(*)
親権者の同意無しでの経口避妊薬の入手可能年齢 14 16 18 18 18(*)
(*):2022年4月より施行。Source: Sexual Rights Initiative
日本では、2018年6月に民法が改正され、2022年4月から、成年年齢の18歳への引き下げ、女性の婚姻年齢の18歳への引き上げが施行されます。それにより、医療を受ける際に親権者の同意が必要な年齢も18歳まで引き下げられることになります。ただし、刑法上性的同意年齢は13歳と考えられているにも関わらず、13歳から18歳までの間は、親権者の同意なしに自由に性と生殖に関する医療サービスを受けることができません。未成年者の性的同意という性的自己決定権を守ることも大切ですが、未成年者の保護という側面からは、今後性的同意年齢の引き上げが必要なのではないでしょうか。

人工妊娠中絶と堕胎罪

日本では薬剤を用いた中絶が法的に認められておらず、WHOが推奨する安全な中絶のうち薬剤を用いた中絶は行えず、刑法第212条の堕胎罪で罰せられます。(妊娠13週までの場合、WHOの第1推奨方法はミフェプリストン内服に続くミソプロストールの内服、第2推奨は真空吸引法(ミフェプリストンまたはミソプロストロール内服により子宮頸管を柔らかくしたあと、子宮頸管に管を入れて少しずつ拡張し、子宮内容を真空管で吸引する方法)。)
また、母体保護法第14条指定医師のみが、身体的または経済的に妊娠分娩が母体の健康に著しく害を与える、またはレイプによる妊娠、と判断した場合に、本人と配偶者の同意を得て人工妊娠中絶を行え、この要件を満たさない中絶は堕胎罪に抵触します。(配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者が亡くなったときには、本人の同意だけで足ります。)妊婦本人が未成年の場合に親権者の同意が必要かどうかは明示されていません。
SDGsグローバル指標5.6.2では、日本は女性の命や健康を守る目的やレイプ被害の場合に中絶ができることが法的に認められていることで加点評価を受けている一方、中絶に医師の承認や配偶者の同意が必要なこと、女性が違法に中絶すると罰せられる可能性があること、中絶後のケアについて法律で定めていないことで減点評価を受けています。
(筆者は小児科医であり胎児の生存権を守る職業的責任があります。しかし少なくとも妊娠22週未満の胎児の中絶については、倫理的社会的な議論やサポートは必要ですが、中絶した女性に刑罰を与える必要はないと考えています。)

学校での性教育

学校での教育は、日本国憲法第26条(教育を受ける権利、教育の義務)、教育基本法、学習指導要領で定められています。ただし学習指導要領では妊娠の経過(性行為や避妊)については取り扱わないこととされています。からだの自己決定権をエンパワーするためには、性行為や避妊について具体的に学習し理解する必要があるのではないでしょうか。
(参考:ユネスコ(UNESCO)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、国連人口基金(UNFPA)、ユニセフ(UNICEF)、世界保健機関(WHO)との共同で発表された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」によると、包括的性教育はセクシュアリティの認知的、感情的、身体的、社会的諸側面についての、カリキュラムをベースにした教育と学習のプロセスで、学校などで行われることがすすめられており、現段階のグローバルスタンダード。次の8つの章で構成されている。1.人間関係 2.価値観、人権、文化、セクシュアリティ 3.ジェンダーの理解 4.暴力と安全確保 5.健康とウェルビーイング 6.人間の身体と発達 7.セクシュアリティと性的な行動 8.性と生殖に関する健康。https://www.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/ITGSE.pdf

HPVワクチン(子宮頚がん予防のためのワクチン)

日本ではHPVワクチンは2013年4月に予防接種法に基づき定期接種化されましたが、多様な症状を訴える副反応が報告されたため6月に勧奨接種が中止されました。その後、2014年9月に多様な症状が出た際の協力医療機関が選定され、2015年8月に日本医師会と日本医学会が合同で「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」を発表し、9月に各都道府県に相談窓口が設置されるなど、対応が進んできました。2020年10月からは、定期接種対象者とその保護者へ個別送付による情報提供が行われるようになっています。
HPVワクチン接種を希望する人、希望しない人の自己決定権を共に守ることが大切であり、ワクチンについての正確な情報を得やすくしながら、勧奨接種の再開を検討することが今後必要ではないでしょうか。
(参考:日本プライマリ・ケア連合学会 こどもとおとなのワクチンサイト「ヒトパピローマウイルスワクチンに関する情報」https://www.vaccine4all.jp/topics_M-detail.php?tid=9
(筆者は小児科医として、普段から多様な症状を訴える思春期のこどもたちを診療し、必要時には精神科医や代替医療の専門家と連携しています。そのようなこどもたちや保護者からHPVワクチン接種について質問されたときには、正確な情報を伝えるよう努め、体調の良いときに十分に納得してから接種することをお勧めしています。定期接種として受けられるのは高校1年生までですが、その後も費用は高くなりますが任意接種が可能なこともお伝えしています。)

まだ十分に整備されていない法律や制度の例

多様な避妊法を保障する法律や制度:
日本では、低用量ピルや子宮内システムは避妊に対して医療保険適用されておらず、他国では普及しWHOも推奨している避妊インプラントは使用を認められていません。

性的少数者(LGBT)への差別を禁じる法律:
日本ではまだ制定されていません。

性の自己決定を保障する法律:
日本の性同一性障害特例法では、性別変更をする場合に2名以上の医師による診断が必要とされており、世界的には性の自己決定を阻害する要因と考えられています。
また、日本の医学では一般的に、性分化疾患では、性別判定に基づいた形成手術を、性別の自覚が生じる1歳半までに行います。しかし、性分化疾患では性別違和が8.5-20%で起こるとされており、世界的には当事者団体から、本人が自己決定できるようになるまで形成手術を延期するようにという声があがっています。

選択的男女別姓を保障する法律:
男女同姓について、日本は国連女子差別撤廃委員会から是正勧告を受けていますが、まだ民法の改正はなされていません。

執筆:坂本 晴子(大阪赤十字病院 新生児・未熟児科 副部長)

投稿:2021年07月05日