京都大学 学際融合教育研究推進センター

リプロダクティブ・ヘルス&ライツ
ライトユニット

Reproductive Health and Rights Light Unit - SRHR.JP

公開勉強会第2回/後編「不妊治療の現状〜生殖医療現場で迫られるDecision makingとSRHR〜」銘苅桂子氏

2021年1月24日、生殖補助医療をテーマに第2回公開勉強会を開催しました。前月の2020年12月4日には、日本で初めてとなる生殖補助医療に関する法律「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律(生殖補助医療法)」が衆議院本会議で可決・成立しました。
明治学院大教授の柘植あづみ氏に続き、後編では不妊治療や生殖補助医療の現状について琉球大学病院周産母子センターの銘苅桂子氏にお話を伺いました。実際に生殖補助医療を実施している産婦人科の医師は、不妊治療の現状をどのように捉えているのでしょうか。

不妊治療の現状

不妊症は、「妊娠を希望し、避妊せずにいたが1年間妊娠しない場合」と定義されています。日本では、妊娠を希望するカップルの10~15%が不妊症だといわれています。不妊症の原因はさまざまですが、卵管がつまる卵管性不妊(約30%)、精子の運動率や数などに問題がある男性因子(約35%)、排卵がしにくいなどの排卵因子(約10%)、子宮内膜にポリープや癒着、子宮筋腫があるなどの子宮因子(約10%)などがあります。いろいろ調べても原因が分からない原因不明不妊も15%ほど存在します。

不妊治療は、何段階かのステップを踏んでいきます。最初は不妊の原因を検査しながらタイミング療法を行います。タイミング療法は保険適応となり、費用は1回あたり数千円程度。検査の結果、特に問題がなければタイミング療法を半年ほど継続することもありますが、検査で「精子が少ないようだ」といった原因が分かってくると、人工授精に進みます。人工授精には保険適用がなく、費用は1回あたり1~2万円ほどがかかります。あるいは、「卵子が卵管を通れないようだ」といったことが分かれば、体外受精・胚移植に移っていきます。この場合も保険適応はなく、1回あたり30~60万円かかります。検査を同時に行いながら、その人に適した治療を行っていくというのが一般的な不妊治療のステップです。

体外受精では、排卵誘発を行います。できるだけ1度の採卵で多くの卵子を得られるよう、月経が始まったところで排卵誘発剤(Gn-RHアゴニスト)を毎日注射するGn-RHアゴニスト法を選択します。卵巣の機能が低下している人は、Gn-RHアゴニストを用いても採卵に至らない可能性があるため、クロミフェン法というマイルドな刺激による治療を選択することが多くなります。採卵後、卵子を体外で培養し、精子を振りかけて受精させ、さらに培養するのが体外受精です。精子の数が少ない男性の場合は、顕微鏡下で1つの卵子に精子を注入する顕微授精という技術も必要になります。その後、受精卵を体外で培養してから凍結し、子宮を胚移植に適した状態にしてから移植します。

妊娠を望む女性が高齢化することの問題点

一般的に、35歳から妊娠のしやすさは低下し、40歳を超えると急速に妊娠しづらくなります。卵巣内の卵子数は、胎生5~6カ月までにピークに達し(約700万個)、徐々に減っていきます。出生前から存在する卵子は、年齢とともに質の低下を来します。そのため、年齢の影響を受けやすくなっているのです。女性の晩婚化と挙児希望年齢の高齢化などの社会的要因により、加齢に関連した不妊症が近年増加しています。

妊娠を望む女性が高齢化することの問題点としては、(1)卵巣機能の低下、胚の染色体異常が増加すること――が、挙げられます。他にも、(2)子宮内膜症や子宮筋腫の罹患率が高くなり、年齢に伴って進行すること、(3)がんの発症リスクは年齢とともに高まるため、がんを合併した妊娠が増加すること、(4)妊娠前にがんに罹患すること――といった問題点があります。

こうしたリスクを踏まえ、もしも47歳の女性が妊娠を希望して受診してきたらどうするでしょうか。銘苅氏は、「治療をするのかどうか、どういった治療方針にするのか、決めるのがとても難しい」と言います。

銘苅氏が所属する琉球大学病院のデータで、年齢別で妊娠率を見ると、どの年代も3~5割の妊娠率を獲得しています。しかし、年齢別流産率を見ると、40歳以上は非常に流産率が高くなっています。例えば2020年のデータでは、30~34歳の流産率が33.3%なのに対し、40歳以上では47.4%となっています。

40歳以上の体外受精の成績を見ると、40歳で妊娠した6例のうち、正児獲得に至ったのが3例で、41~43歳でも妊娠後の正児獲得率は同様の割合でした。44歳以上では妊娠例はあるものの、正児獲得例はありませんでした。銘苅氏は、「データ上の数字は少ないが、そもそもこの前にたくさんの方が採卵を試みている。それでも卵子が取れない方はたくさんいます」と言います。

妊娠・出産は、母子ともに健康な状態で出産を終えることが目標となります。体外受精や顕微授精法などの生殖補助医療で妊娠した場合と、自然妊娠とを比較した場合の周産期合併症リスク(妊娠高血圧症候群、前置胎盤、癒着胎盤、胎盤早期剥離、帝王切開、輸血、ICU管理、早産)は、生殖補助医療を用いたケースは、自然妊娠に比べて、すべてのリスクが高まることが分かっています。

銘苅氏は、「40歳を超えると、自然妊娠でも周産期合併症のリスクは高まるので、高齢で生殖補助医療を用いた妊娠をする際は、さらにリスクが高くなる。こうしたことも踏まえて、妊娠後に合併症によって母親の命が失われるリスクなども検討して患者と相談していかなければならない」と言います。第三者から卵子の提供を受けて妊娠した場合は、免疫の許容という問題もあり、合併症のリスクがさらに高まるとされています。「ただし、日本ではまだデータがないので、分からないなかで患者と相談して決めていかなければなりません」

そのため、例えば47歳の女性が妊娠を希望して受診した場合、45歳以上での正児獲得は非常に困難であること、周産期までのリスクを考慮する必要があること、治療を行った場合と行わなかった場合の精神的ストレスについて考えること、特別養子縁組の情報提供をすること、場合によっては卵子提供の選択肢を伝えること、夫婦でのカウンセリングを受けることなど、医療者はさまざまな情報提供をし、意思決定支援をする必要があります。

がん克服後に子どもを授かる選択肢の拡大と判断の難しさ

高齢になればがんの罹患率も上がり、治療によって妊孕性(にんようせい:妊娠のために必要な機能)を失う前に卵巣凍結などを行うかどうか、判断が必要になります。小児がんの場合でも、妊孕性を失う可能性がある治療を行うのであれば、生殖補助医療の選択肢が示されることもあります。

例えば、2歳の女児がリンパ腫となり、これから使用する抗がん剤によって妊孕性が失われるおそれがあるとき、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)の観点から、治療方針は保護者と医師だけで判断していいのでしょうか。卵巣凍結を考えるにしても、2歳児とインフォームドコンセントを取ることは困難です。卵巣に転移しているリスクもありますし、そもそも卵巣移植後に妊娠・出産できるデータは不十分です。さらに、本人が将来、養子縁組や卵子提供による妊娠・出産を選択する可能性もあります。

では、40歳の男性が大腸がんで、予後が約2年と見込まれている場合はどうでしょうか。妻も本人も子どもを望んでおり、本人は「自分が他界しても、子どもがいれば妻はさみしい思いをしないのではないか」と語っているとします。実際には、こうした場合、予後が良好な場合に生殖補助医療の適応があるとされており、死亡後は精子を使用できないというルールもあります。それでも夫婦の希望が切実な場合、本人が亡くなった場合のことまで考えて、本人と妻だけでなく、その親にも説明する必要があるでしょうか。生まれてくる子どもの福祉を考えた場合の最善の選択肢は何でしょうか。これも、誰がどのように判断するのか、大変難しいケースです。

生殖医療の発展により、がん治療克服後に子どもを授かる選択肢が広がってきました。銘苅氏は、「それ自体はとても良いことで喜ばしい。しかし同時に、誰を適応とし、またしないのか。誰が決断するのか。数十年後に結果が出る医療現場において、現時点での意思決定支援はとても難しい」と日々悩んでいると言います。

今回、生殖補助医療法が成立し、日本でも第三者からの精子や卵子を用いた生殖補助医療が広く行われるようになります。しっかりとデータが蓄積されていくのでしょうか。前編で柘植氏が指摘したように、生まれてくる子どもの出自を知る権利などがしっかりと規定されない不安定な法律のままなのか……、 こうした点はさらに議論が必要だと銘苅氏も考えています。

第三者からの精子や卵子を用いた生殖補助医療が欧米並みに増えるのか? 高齢の不妊女性は、受精卵着床前検査を用いて体外受精を行うよりも、提供卵子を用いるようになるのか? これを良いことと捉えるのか、悪いことと捉えるのか?

この答えは、現状の問題点をいかに議論し、整理されていくかにかかっています。

銘苅桂子(めかるけいこ)

平成11年3月 琉球大学医学部医学科卒業
平成11年4月 琉球大学医学部産科婦人科入局
平成13年4月 関連病院医師
平成16年4月 琉球大学医学部附属病院産科婦人科 医員
平成18年10月 琉球大学医学部附属病院周産母子センター 助教
平成25年4月 琉球大学医学部附属病院周産母子センター 講師
令和元年12月 琉球大学病院周産母子センター 教授  

<専門医>
日本産科婦人科学会専門医・指導医
日本生殖医学会生殖医療専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医

<役職>
病院長補佐 男女共同参画・働き方改革担当
日本産科婦人科学会 代議員
日本産科婦人科内視鏡学会 幹事
受精着床学会 評議員
九州・沖縄生殖医学会 評議員
九州・沖縄内視鏡研究会世話人
沖縄県医師会女性医師部会委員
沖縄県男女共同参画推進委員会委員
NPO法人日本子宮内膜症啓発会議実行委員
沖縄県がん診療連携協議会小児・AYA部会委員

<所属学会>
日本産科婦人科学会
日本生殖医学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本女性医学会
日本新生児・周産期学会
日本がん・生殖医療学会
日本受精着床学会
日本卵子学会
日本東洋医学会
日本エンドメトリオーシス学会
日本産婦人科手術学会

執筆:増谷彩=omniheal/医療ライター
編集:高木大吾(Design Studio PASTEL Inc.)

投稿:2021年07月02日