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Sexual Reproductive Health and Rights Initiative

公開勉強会7月11日世界人口デー 『世界人口白書2021』日本語版 発表記念オンライン・イベント 「わたしのからだだから ~ #からだの自己決定権 って何?」 2021年7月11日(日) 開催レポート

7月11日世界人口デーに合わせて、『世界人口白書2021』日本語版 発表記念オンライン・イベント「わたしのからだだから ~ #からだの自己決定権 って何?」が開催されました。
主催は、京都大学SRHRライトユニット、国連人口基金(UNFPA)東京事務所、NPO法人 女性医療ネットワーク(五十音順)の3団体。
参加者は650人と日曜の朝にもかかわらず、注目度の高さが伺えました。参加者のほぼ9割が女性、年代は30代40代が半数以上と当事者世代の意識の高まりを感じたイベントとなりました。イベント後のフィードバックやアンケートの結果からは、満足度について、10段階で7点以上が94.3%と大好評でした。

自分のからだについて自分で決められない! 自己決定権が守られていない!

「#からだの自己決定権」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
暴力を恐れたり、他人に決められたりすることなく、自分のからだに関することを自分自身で選択することと、その力を意味します。つまり、すべての人が持つ、守られるべき基本的人権です。

「セックスする、しない」「子どもを産む、産まない」
私たちは自分の「からだ」のことを自分で決める権利があります。私のからだは、私のもの。
しかしながら、この当然とも言える権利であるにもかかわらず、自分のからだについて自分で決められない人が世界にはたくさんいます。これは、開発途上国の問題だけではありません。

日本に暮らす私たちにも、非常に身近な問題なのです。
新型コロナ禍で、ジェンダー不平等がさらに広がり、「#からだの自己決定権」が守られない状況が広がっています。

今回のイベントでは、上野千鶴子さん(社会学者)、アルテイシアさん(作家)、駒崎弘樹さん(認定NPO法人フローレンス代表理事)が登壇。ファシリテーターは宋美玄さん(産婦人科医)が務め、日本における「#からだの自己決定権」について掘り下げていきました。

【プログラム・登壇者(敬称略)】

・開会挨拶:対馬ルリ子(NPO法人女性医療ネットワーク理事長・産婦人科医)
・『世界人口白書2021』の紹介:佐藤摩利子(UNFPA東京事務所長)
・パネルディスカッション「#からだの自己決定権」って何?
ファシリテーター:宋美玄(産婦人科医・医学博士)
パネリスト:上野千鶴子(社会学者・東京大学名誉教授)
アルテイシア(作家)
駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス 代表理事)
*登壇者の略歴は、文末にあります。
・参加者のみなさんからのQ & A
・総括 池田裕美枝(京都大学SRHRライトユニット代表)
・閉会挨拶 阿藤誠(国立社会保障・人口問題研究所名誉所長)
「からだの自己決定権がなぜ、人口問題に関係するのか?」

【『世界人口白書 2021』概要】

国連人口基金(UNFPA)が2021年4月14日発表した『世界人口白書2021』は、57の開発途上国において約半数の女性が、パートナーとの性交渉、避妊薬・具の利用、ヘルスケアの 3 分野で決定権を真に享受できていないと訴えています。
【主な調査結果】
・性交渉、避妊、ヘルスケアに対して完全な自己決定権を持っている女性は、全体の55%
・マタニティケア(妊娠・出産・中絶)へのアクセスを保障している国は、全体の71%
・避妊への完全かつ平等なアクセスを保障している国は、全体の75%
・性に関する健康とウェルビーイングを支援する法律を制定している国は、全体の約80%
・包括的な性教育を支援する法律と政策がある国は、全体の約56% など。

本白書は、国連の報告書として初めて「からだの自己決定権」に焦点を当てています。からだの自己決定権が損なわれると、女性と少女に深刻な被害を与えるだけでなく、経済的生産性とスキルの低下をもたらし、結果的にヘルスケアや司法制度に余分なコストが必要となる可能性があります。

UNFPA事務局長ナタリア・カネムは、『世界人口白書2021』の発表に際し、「すべての人々が自らのからだの自己決定権を持つことができるようになれば、より大きな正義と人々のウェルビーイングを実現することにつながり、それは私たちすべてに恩恵をもたらすことになるのです」との声明文を発表しました。*詳細は UNFPA Tokyo | 世界人口白書2021

日本語抜粋版はSRHRライトユニットの翻訳協力、阿藤誠氏の監修によりUNFPA東京事務所が制作し、このイベントに合わせて発表されました。

なぜ今、#からだの自己決定権 がテーマなのか?

司会進行を務め、主催者のひとりでもある池田裕美枝(京都大学SRHRライトユニット代表)は、イベント開始に当たり、このイベントを企画した理由についてこう話します。

「『世界人口白書2021』日本語版UNFPA Tokyo | 世界人口白書2021に、私たちが触発されたからです。
『世界人口白書2021』は、単なる世界人口に関するデータをまとめた人口動態の報告書ではありません。「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)=性と生殖に関する健康と権利」が、世界でどれくらい実現されているか、についての分析や考察をまとめたレポートです。そして、今年のテーマは「#からだの自己決定権(Bodily Autonomy)」でした。
『世界人口白書2021』ではおもに、途上国のSRHRの現状を訴えています。しかし、日本語への翻訳に協力した京大SRHRライトユニットのメンバーは、「これって日本のことを言っているみたい」「日本の数字は出ていないけれど、本当のところどうなのだろう」と白書を“我が事”として受け止めました。
本日は、日本における「#からだの自己決定権」を、日本にいるみなさんとともに考えたいと思っています」

パネルディスカッション「#からだの自己決定権」って何?

ファシリテーター:宋美玄さん(産婦人科医・医学博士)
パネリスト:上野千鶴子さん(社会学者・東京大学名誉教授)
アルテイシアさん(作家)
駒崎弘樹さん(認定NPO法人フローレンス 代表理事)
*登壇者の略歴は、文末にあります。

宋さん:まず、パネリストのみなさまから、今回の『世界人口白書2021』についてお一人ずつご意見をいただきたいと思います。

上野さん:今改めて、「女のからだは誰のもの?」と問いたいと思います。女のからだは実は女のものではありません。女のからだは、国の産む機械です。
1994年にカイロで開催された国際人口開発会議(ICPD)では、イスラム圏の猛反対により声明がまとまりませんでした。このとき、女のからだが国際政治の焦点になったのです。
日本は「中絶天国」と不名誉な呼称をもらっているほどで、アクセスは相対的に容易ですが、日本の中絶法は時代遅れ。しかも日本女性には中絶の権利はありません。明治期に成立した刑法堕胎罪が今でも残っています。日本女性が勝手に堕胎したら刑法犯罪になります。

日本は、女性の月経用品、避妊法、出産方法、月経痛や陣痛の対策など、諸外国と比べて大きく遅れています。ツールも選択肢も少なく、コストも高い! あたかも女性にペナルティを与えるかのようです。女は我慢するのが当たり前。そのうえ出産、育児によって生涯ペナルティを受けています。

歴史を知る存在として少し思い出話をします。過去、私がアメリカから日本に持ち込んだ本が『からだ・私たち自身』として翻訳され1988年に日本で出版されました。初めて女性の閉経経験に言及された本です。
それに先駆け1983年に『モア・リポート 女たちの生と性/新しいセクシュアリティを求めて』(現在、集英社文庫1985年版)が出て、女の言葉で女性の性経験を語り、その実態を明らかにする日本初の性白書が話題になりました。日本の女性のセックス調査の古典中の古典です。当時、タブー中のタブーであった女のマスターベーションも扱われています。

当時の雑誌『MORE(モア)』読者の母親からの投稿を、今も鮮烈に思い出します。自分が調査の対象でないことを自覚しているが、娘が読んでいる雑誌を見て投稿したくなったと。「夫とのセックスで快感を感じたことがありません。ずっと感じたふりをしてきた。夫には今さら言えない。夫のプライドをズタボロにするから。私は自分の性を一生、封印していきます。でも、娘には私と同じ思いをさせたくない」という投稿です。このような生の女の証言を歴史に残していってほしい。

新しい女性の動きもあります。刑法改正(不同意性交罪、堕胎罪の廃止など)、性交同意の年齢引き上げ(13歳から16歳へ)、アフターピル、ピルのOTC化、10代女性の中絶の配偶者同意の廃止ほか。しかしまだまだ問題は山積しています。

「Sexual Reproductive Health / Rights / Freedom(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ/フリーダム)」。
なんじゃこりゃ? これを「からだの自己決定権」とあかりやすい日本語で言い換えたのは今回の日本語版世界人口白書のお手柄だと思います。もっとわかりやすく言いかえましょう。
「したいときに、したい相手と、したい仕方でセックスする自由」「したくないときに、したくない相手と、したくない仕方でセックスしない自由」「産みたいときに、産みたい仕方で、子どもを産む自由、産みたくないときに子どもを産まない自由、子どもを産むか産まないかを決める自由」そして、「いずれの自由を行使しても誰からも差別されない権利!」のことです。

アルテイシアさん:白書に載っていることは、すべて大事だと思います。その中で私が特に言いたいのが、性暴力と性教育についてです。
性暴力を見過ごさず、声を上げようと呼びかける『#ActiveBystander(アクティブバイスタンダー)=行動する傍観者』という動画を作りました。
欧米では、第三者介入教育プログラムが広く行われて、性暴力が47%減った学校もあります。

日本では、性教育がかなり遅れています。なのに、日本で世界中の6割の性ポルノが作られていて、性産業先進国と言われている。ポルノにゆがんだ価値観を刷り込まれないためにも、包括的性教育が本当に必要です。

また、性的同意の教育も遅れています。
欧米では「明確なYES以外はNO!」。しかし日本では「明確なNO以外はYES」という価値観が根強い。なぜ、被害者が責められる? 加害者が責められる社会にならなくてはならないと思います。

加害者がいなければ、性暴力はなくなるんです。女性は、好きな人に求められると断りにくいと言います。だからこそ、求める側が「セックスしてもいい?」と聞かなくては。聞くことに慣れていないのが日本人です。
「同意のない性行為を性犯罪に」という声に対して、日本では同意を得る文化が浸透していないと言いますが、だからこそ、教育が必要なのです。

刑法が変われば、性教育もスピードアップすると思います。法律と教育、両方が重要です。警察に被害届を受理されない現実。法律が追い付いていない。困っている人がいるのだから、変えていかなければ。
それに対して何ができるか? 私は、声を上げていく、のろしをあげることが大事だと思います。それによって、無関心だった人が気づくんです。
オンラインや#でつぶやく。小さな声でも集まれば、大きな声になります。「みんなで、のろしを高く上げていこうぜ!」と言いたいです。

駒崎さん:私は、男性の立場ではありますが、この問題に男女は関係ない。女性のからだの問題は、女性だけでなく、人間(ヒト)の問題だと思っています。

認定NPO法人フローレンスは、親子の課題を解決することにさまざま取り組んでいますが、その中で、特別養子縁組のあっせん事業があります。
今、虐待で亡くなる子どものうち、最も多いのが赤ちゃん、0歳児です。
なぜか? と言うと、予期せぬ妊娠、貧困、親の精神疾患などが重なって、産んでも育てることができず遺棄してし、赤ちゃんが亡くなっています。予期せぬ妊娠をした人に、特別養子縁組の法律を使って、お子さんを迎えることを望むカップルとのマッチングをしています。

毎日のように妊娠相談があります。性暴力や性犯罪のために妊娠したというものなどです。
これは、「日本の話なの?」と思うような相談が次々に来る。どこにも相談できていないケースに相対しています。構造的な課題があることをヒシヒシと感じています。

包括的な性教育は、マストです。性教育を受けていない人達は、なんで妊娠するかよくわかっていないんです。妊娠させる側(男性ですが)はバックレる。女性は、孤立していくことが少なくありません。義務教育の中でしっかり教えるべき。避妊しないことで人の人生が変わるということを。特に、男性に伝えたい。そして、女性にも「NOと言っていいんだ」ということを知ってもらいたいです。

また、女性の政策にかける予算がめちゃくちゃ少ないことも問題です。
DVシェルターへの補助はほとんどなく、ほとんどのDVシェルターでは持ち出しで対応しています。だから続かない。セーフティネットが広がらない。ここも変えていかなければ。
女性の問題だけではない、人間(ヒト)の問題です。男性もコミットするべき。政策を変えていかなければ、この問題を変えられない。
みなさんと一緒に何とかしていきたいです。

宋さん:産婦人科医として、「からだの自己決定権」に関わることが非常に多いです。
問題だと思うことの中には、私たち産婦人科業界の怠慢もあるし、法律、社会環境の問題もあります。
本質は、ジェンダーの問題ではないこともある。そのあたりは、われわれが丁寧に説明していく必要があると思っています。

性教育の問題で言えば、私は10年以上前にセックスの本を出して、セックスの女医というイメージがありますが、商業ポルノのコンテンツが文化として根付いている日本において、われわれの産婦人科医の業界の問題もあると思います。
産婦人科業界でセックスについての情報が少なく、女性たちの悩みの相談に乗れていない現状があります。このことも、からだの自己決定権に影響していると思っています。

アフターピル、避妊へのアクセスのハードルの高さ。さらに、HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の積極的接種勧奨が8年も止まっている状態。これが政治的案件として放置されていて、自己決定権どころか、女性の健康を大きく害する問題となっています。
中絶についても、性教育が十分でないうえに、妊娠したら女性の側の負担が大きすぎる。費用、アクセス、同意書が必要など、問題が非常にたくさんあります。

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このあと、4者によるフリートークでは、さまざまな意見が展開。
「たとえばコンドームをつけてよと言えない。言ってもつけてもらえないと、そのまま受け入れてしまう。女性は男性に意見を言いづらいという文化が問題の背景にある」(宋さん)

「2003年(現政権)から性教育は後退している。義務教育では指導要領で性交を教えないことになっている。知識がないだけでなく、男にNOと言えない女が、再生産されている」(上野さん)

「からだの決定権で感じるのは、日本女性の生理の貧困。月経用品を買うのに苦労した学生が2割もいる。それに10代は親に保険証を借りないと婦人科に行けない。婦人科受診のハードルが高すぎる。欧米のように学校でナプキンやピルがもらえたり、月経や性の相談に乗ってくれる身近な場が欲しい。ユースクリニックを作るなど、アクセスしやすい方法を」(アルテイシアさん)

「女性と同様、男性も妻が妊娠したら、休むことが大事。男性の育休取得率が低すぎる。義務を課す制度にしないと変わらない。政治を使うことを考えたい。投票率が高いのは高齢者で、若い世代の投票率低いのも問題」(駒崎さん)

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参加者の事前質問もたくさん寄せられ、そのうち4つをピックアップ。Q&A方式で登壇者がディスカッションしつつ答えていきました。

【参加者からの質問からピックアップ】

Q. 女らしさ、男らしさを大事にする必要はあると思いますか? もし好きになった相手が女らしい(あるいは男らしい)振る舞いを求めてきたとき、どう対応しますか?

Q. 企業や教育機関で講師をしています。性的なことに対してNOと言えないだけでなく、すべからく自分の意見が言えない女性を見て、愕然とします。どうしたら打破できるでしょうか?

Q. 男性がセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)のことを広めよう、啓蒙しようとすると、女性から「マンスプレイニング(男が女を見下したような態度)」、男性からは「女のことを考えるな」と批判される。どう対処したら? 僕も批判されたことがあります。

Q. 「当事者の声が社会を変える!」本当にそう思います。けれども、支援者が支援者の視点で動くことも多く、そうなると搾取が起こってしまいます。そうならないために、支援者の側に必要な自覚や意識についてご提案いただければ?

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最後に「これだけは訴えたい!」というメッセージを

上野さん:今日の議論に上らなかったことを2つお話したいです。
ひとつは、拒食症で亡くなったアルテイシアさんのお母さまのお話を伺って、そうかダイエットも、からだの自己決定権に関わるんだということに気づきました。自分のからだを世間や男に望まれるように変えたいと思うこと自体、からだの自己決定権が奪われていることになります。
自分のからだは、食べたもの、生き方、暮らし方、動かし方によって自分で作っていることを自覚してほしいと思います。男ももっと身体の自己管理を自覚してほしい。
ふたつめは、参加者からの事前質問を拝見して、愕然としたことです。NOが言えない女性たちは、いまだにこんなにいて、苦しんでいたのか…。半世紀経ってようやくフェミニズムはネガティブワードではなくなったけれど、一体何が変わったのかしら…と切ない思いです。しかし半世紀前には、オンラインもなく、アルテイシアさんも、駒崎さんもいらっしゃいませんでした。こういう方がいらっしゃることに、希望を繋ぎたいと思います。

アルテイシアさん:拒食症で亡くなった母の存在が私にとって大きいです。母は23歳で専業主婦になって、40歳目前で夫から離婚を言い渡され、そこから酒に溺れて自傷行為をするようになりました。当時、中学生の私は、「お母さん、ちゃんと自分の足で立ってよ」と思っていましたが、大人になって「母は自分の足を奪われたんだ」と気づきました。1950年生まれの母にとって、結婚して夫に養われるしか選択肢がなく、母には自己決定権がなかったのです。
私は20代でフェミニズムに出合って、上野先生たち先輩方の本を読んで、母の人生を理解できました。

一方で当時、会社員でセクハラとか、女性差別を受けて、私自身も自尊心を傷つけられたけれど、フェミニズムに出合って自分を苦しめているものの正体がわかり、自尊心を取り戻すことができました。フェミニズムに救われたひとりです。
ジェンダーギャップが120位の日本。女だから、の差別はありますが、ここ3年の変化は大きい。2017年“#Me Too”があって、女性が声を上げるようになった。東京五輪組織委員会の森さんの発言にも声を上げる人が多く、世論が政治を動かしました。一人ひとりが声を上げることで、世の中が変わることが証明できたと思います。
10年前にフェミニズムの本を書きたいと出版社に言っても、そんなの売れるわけがない、と。でも今ではフェミニズムについてぜひ書いて欲しい、と依頼されるようになりました。私の母は生きていれば今、71歳。以前、夫と死別した70代の女性にお話を聞いたときに、「実は私ね、7回中絶したのよ。夫が避妊してくれなかったから。だから夫に黙って7回中絶した」とおっしゃられた。私は胸が潰れるような思いをしました。ピルが解禁されていたらと思いました。
『ウーマン・イン・バトル 自由・平等・シスターフッド!』(合同出版)というノルウェーの児童書に載っているマーガレット・サンガーさんは、逮捕されたり、投獄されたりしながら、女性のためにピルを推進したんです。私たちが今、ピルを使えることも、進学して就職して、選挙に行けることも、フェミニストの先輩たちのおかげ。だからそのバトンを繋いでいきたいと思っています。

駒崎さん:お二人の話を聞いて、登壇者ながら感動し、胸が痛みました。たくさんの宿題をいただいた気がしています。

当事者に対して、どのように支援していくべきなのか…、われわれは答えを探し、もがいている状態です。このムーブメントを重く受け止め、そして、もう一方の当事者として、どう後押しできるか。そう思っている男性は多いのではないかなと思います。

男性たちにこうやって応援すればいいんだという型を見せることができたら、加速できるのではないかと。絶え間ない議論の中で見つけていき、実践できたらと思っています。

宋さん:からだの自己決定権を阻むもの。それはジェンダーの問題なのか、あるいはジェンダー以外の環境の問題も潜んでいるのか、をわかりやすく発信しつつ、われわれの産婦人科業界内の自浄作用を促すような働きかけをして、改善していきたいと思います。今日はありがとうございました。

今日の意見を政策決定者への「提言」としていきたい!

池田さん:ありがとうございました。本日、ここで出た貴重な意見を政策決定者への「提言」としてまとめたいと思っています。
本イベントの参加者のみなさまには、「#からだの自己決定権」についてさらに考えを深めていただきたいです。そして、自分の、隣人の、「#からだの自己決定権」を実現するための行動を起こしてもらいたいと思います。
医療、法律、教育、経済、政治、それぞれがバラバラに動くより、あらゆるセクターが連帯して、世代を超えて「#からだの自己決定権」を実現しましょう。これが『世界人口白書2021』のメッセージです。このイベントが、そのための一歩となれば幸いです。

これらのお話も今回のテーマを深く知るには重要な内容です。ぜひ動画でご覧ください。

7月11日世界人口デー:わたしのからだだから~ #からだの自己決定権 って何?~(YouTube)

・開会挨拶:「医療者だけでなく当時者、ジェンダー、友人の視点を理念として共有しつつ」対馬ルリ子(NPO法人女性医療ネットワーク理事長・産婦人科医)
・『世界人口白書2021』の紹介:佐藤摩利子(UNFPA東京事務所長)
・閉会挨拶:「からだの自己決定権がなぜ、人口問題に関係するのか?」
阿藤誠(国立社会保障・人口問題研究所名誉所長)

・開会挨拶:

「医療者だけでなく当時者、ジェンダー、友人の視点を理念として共有しつつ」
対馬ルリ子(NPO法人女性医療ネットワーク理事長・産婦人科医)

初めに私どもNPO法人女性医療ネットワークが発足した経緯からお話させていただきます。1900年代にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの機運が高まり、1999年日本で低用量ピルが避妊薬として初めて認可発売、その後、女性外来という性差を意識した性差医療の必要性が叫ばれ、2000年代初頭には、多くの女性専用の医療の窓口、女性外来が開設されました。
その機運と共に全国の女性外来担当医師が約30人集まり、2003年より約2年間、女性外来の窓口をどのように運用していくのか、求められているものは何かを学び、情報交換する会として女性医療ネットワークが発足。この約2年間の勉強会で、女性たちが何に困り、苦しんでいるのか、何を求めているのか、徐々に医療の中で必要とされていることが見えてきました。そこで『女性外来ハンドブック~こんなときどうする』を作成。現場でさまざまな愁訴に向き合っている各診療科の医療関係者が情報を持ち寄って作った冊子です。
私たちは設立当初から5つの視点を会のポリシーとしています。「1.臨床の視点、2.科学の視点、3.当事者の視点、4.ジェンダーの視点、5.友人の視点」この5つの視点をもって活動して参りました。1、2は医療者として当然ですが、3、4、5の視点はこれまで医療の中では重んじられてこなかった視点です。しかし私たちは共有理念として、横に広がり、さまざまなジャンルの人たちと協力し合って、新しい健康文化、人生のサポート、ヘルスケア分野との連携を大切にしていくうえで重要な視点だと思っています。
今回「わたしのからだだから ~#からだの自己決定権って何?」をテーマにして議論が深まることを大変ありがたく思っています。今まで女性医療ネットワークは、医療者だけでなく、さまざまな団体や企業と協同して来ましたが、やはり日本の男女のジェンダーギャップは大きく、依然として女性が困ったときに医療にアクセスできるところも少なく、たとえアクセスできても緊急的にも、中長期的にも、満足できる対応が実現されておりません。そこにはこれまでの日本の法制度の不備、遅れがあると思いますし、医療者も含めて、当事者の方々の意識も「仕方がない、こんなものなんだ」と諦めてきた点があるのではないかと思います。
私たちはコロナの時代を超えて、地球上でひとりも取り残されることなく、幸せに、健康に、本来の意味で豊かに、生きていくためにはどうしたらいいのかということを、もう一度見直すときに来ていると思います。それを発言していく主体が女性であってほしいと思います。
医療だけでなく、政治、経済、教育、社会活動団体、企業など、さまざまな皆様と横に繋がり、ムーブメントを起こすことで日本の体制を変え、日本の文化伝統がより豊かな、拡がりのあるものになることを期待して、本日皆様に呼びかけたいと思います。私自身も勉強し、新しい時代の息吹を感じて参ります。どうぞよろしくお願いいたします。

・『世界人口白書2021』の紹介:
佐藤摩利子(UNFPA東京事務所長)

本日7月11日世界人口デーは、1987年のこの日に50億人目の赤ちゃんが生まれたことを機に、人口に関して考える日として、1990年に制定されました。毎年、世界各国でさまざまな人口に関するイベントが行われています。「#からだの自己決定権」をテーマとした『世界人口白書2021』は、4月に発表されましたが、その日本語版は世界人口デーに合わせて、本日発表されました。
私からは「なぜ今、自己決定権について語る必要があるのか?」をお話したいと思います。コロナの影響もあり、自己決定権の選択が否定されているという現状があります。コロナ禍で女性のからだの優先順位がさらに下がっているのです。
国連人口基金(UNFPA)では3つのゼロを目標にしています。「1. 家族計画が満たされない状況をゼロに」「2. 予防可能な妊産婦死亡をゼロに」「3. GBV(ジェンダーに基づく暴力)などの有害な慣習をゼロに」です。からだの自己決定権は、これらを達成するための基盤になると考えます。現在、2億人の人々が避妊薬・具にアクセスできず、1日約800人の母親が妊娠・出産のために命を落とし、性暴力、児童婚など、有害な慣習が倍増しているという危機感を強めています。
自己決定権の定義は、暴力や抑圧を恐れることなく、自分のからだと将来に関する選択をする力と主体性をもつ権利です。SDGsの中では、性交渉、避妊、ヘルスケアについて自分で決定する権利とされています。性と生殖に関する決定権は、女性のエンパワーメントの根幹です。
性と生殖に関する自己決定権がどの程度達成されているかを見るグローバル指標は、「性交渉、避妊、リプロダクティブ・ヘルスケアについて自分で意思決定を行うことのできる15~49歳の女性の割合」で測定しています。この指標は、人口保健調査(DHS)によって、世界57か国の該当年齢の女性を対象に行った質問への回答に基づいています。
その数字を見ると、わずか55%の女性しか自己決定ができていると答えていないのです。性と生殖に関する自己決定権は、さまざまな国際的な条約や宣言に対して、からだの自己決定とからだの尊厳の礎となり、教育、健康、経済などの権利の基礎。まさに1丁目1番地です。
世界では、80%の国々で性に関する健康とウェルビーイングを支援する法律があります。75%の国々で避妊への安全かつ平等なアクセスを保障する法律があり、56%の国々で包括的教育を支援する法律があります。しかしながら、ただ法律があることと、それがきちんと運用されているかどうかは別問題です。
『世界人口白書2021』で、からだの自己決定権を守るために大切としているのは、「教育レベル」「社会的規範がよりジェンダーに配慮したものであること」「医療従事者からの情報やサポートが重要」「法律は女性の権利、ジェンダー平等、性と生殖に関する健康に大きな影響力をもつ」「YESという力、NOという権利」などです。
本日のキーメッセージとして次の3つを挙げて、私からの最後の言葉とさせていただきます。「1.他者からのコントロールを終わらせる」「2. 公平に性と生殖に関するヘルスケアを受けられるアクセスを保障する」「3. 女性と少女をエンパワーしていく」この3つです。

・閉会の挨拶:「からだの自己決定権がなぜ、人口問題に関係するのか ?」
阿藤誠(国立社会保障・人口問題研究所 名誉所長)

『世界人口白書2021』がなぜ「#からだの自己決定権」を扱うのか? なぜこのイベントの主催者のひとつが「国連人口基金」なのか? 疑問に思われる方があるかもしれません。その疑問に『世界人口白書2021』の翻訳監修者である私から、少し歴史を紐解きながらお答えしたいと思います。
第二次大戦後、開発途上国の人口が激増し、1960年代後半に世界人口の増加率が人類史上最高の2%を記録しました。国連を中心とする国際社会の危機感が強まり、1969年に設立されたのが現在の「国連人口基金」です。その当時の一般的な考え方は、人口爆発は途上地域の経済社会開発を阻害し、地球環境の悪化を招く、それゆえ政府主導の家族計画プログラムによって国民の間に家族計画を普及させ、出生率を低下させ、人口増加率を低下させる必要があるというものでした。
このような人口抑制のための家族計画の普及という考え方を一変させたのが1994年にカイロで開催された国際人口開発会議です。カイロ会議は人口問題に対して、国や経済社会のマクロの視点を重視するアプローチから、個人とりわけ女性のミクロの視点を重視するアプローチへと一大転換しました。そこで新しく登場したのが、性と生殖に関する健康と権利の概念です。これは極めて包括的な概念で、HIVを含む性感染症、不妊症、避妊、中絶、妊産婦死亡など、性と生殖に関わる健康面の問題だけでなく、性と生殖に関わる権利という人権問題も含んでいます。
本日のテーマの「#からだの自己決定権」は、まさに性と生殖に関わる権利にほかなりません。この枠組みの中で家族計画は、従来の人口抑制のための手段ではなく、とりわけ女性が子どもの数など生殖に関わる権利を実現するための不可欠の手段と位置づけられました。カイロ会議のあと、性と生殖に関する健康と権利は、1995年における北京の世界女性会議などを経て、2015年のSDGsでは、第5目標「ジェンダー平等の実現」のターゲット5.6として組み込まれました。このようなカイロ会議以来のパラダイム転換を経て、「国連人口基金」の活動の焦点も、家族計画の普及による人口の安定化から、性と生殖に関する健康と権利にかかわる総合的事業を通じて、女性の健康と権利の実現をサポートすることへと舵を切ったのです。
これが、「国連人口基金」が「#からだの自己決定権」をテーマとする『世界人口白書2021』を発表した理由と言えます。
世界人口白書は、主として途上地域の性と生殖に関する健康と権利の問題解決に焦点を当てています。日本は国際社会の一員として、この分野での途上国支援を一段と強化していくことが望まれます。しかしながら、本日も議論されました包括的性教育ひとつを取り上げてみても、日本社会の現状は大変心もとないものがあります。からだの自己決定権は、日本社会の今日的課題でもあることを肝に銘じて、閉会の言葉とさせていただきます。

【パネルディスカッション登壇者略歴(敬称略)】

上野千鶴子
社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長
富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。社会学博士。平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2012年度から2016年度まで、立命館大学特別招聘教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。第20−22期学術会議会員。第23-25期日本学術会議連携会員。
専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。

アルテイシア
作家
神戸生まれ。ジェンダーや性について発信する作家。8月5日に新刊『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』を発売。著書に『モヤる言葉、ヤバイ人』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』他、多数。ツイッター https://twitter.com/artesia59
「#性暴力を見過ごさない」動画の脚本も手がける。https://youtu.be/QZv4QhOx9UA

駒崎弘樹
認定NPO法人フローレンス代表理事
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2005年日本初の「共済型・訪問型」病児保育を開始。2007年「Newsweek」の“世界を変える100人の社会起業家”に選出される。2010年から待機児童問題解決のため「おうち保育園」開始。のちに小規模認可保育所として政策化。 2014年、日本初の障害児保育園ヘレンを開園。15年には障害児訪問保育アニーを開始。その他赤ちゃん縁組事業、こども宅食事業などを行う。内閣府「子ども・子育て会議」委員他複数の公職を兼任。
著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版) 、『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門 』(PHP新書)等。
一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。

宋美玄
産婦人科医・医学博士
1976年 兵庫県神戸市生まれ。
2001年 大阪大学医学部医学科卒業。大学卒業後、大阪大学医学部附属病院、りんくう総合医療センターなどを経て川崎医科大学講師就任。
2009年 ロンドンのFetal Medicine Foundationへ留学。胎児超音波の研鑽を積む。
2015年 川崎医科大学医学研究科博士課程卒業。周産期医療、女性医療に従事する傍ら、テレビ、インターネット、雑誌、書籍で情報発信を行う。産婦人科医の視点から社会問題の解決、ヘルスリテラシーの向上を目的とし活動中。

主催(五十音順)
京都大学SRHRライトユニット
国連人口基金(UNFPA)東京事務所
NPO法人 女性医療ネットワーク

後援:
アジア人口・開発協会(APDA)
国際家族計画連盟(IPPF)
国際ジェンダー学会
JOICFP(ジョイセフ)
人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)
性と健康を考える女性専門家の会
#なんでないの。プロジェクト
日本ウィメンズリテラシー協会
日本家族計画協会
日本看護協会
日本子ども虐待防止学会
日本産科婦人科学会
日本思春期学会
日本小児保健協会
日本女性医学学会
日本女性医療者連合
日本女性ウェルビーング学会
日本プライマリ・ケア連合学会
みんパピ!みんなで知ろうHPV​プロジェクト

参考資料:『世界人口白書2021

文/増田美加(NPO法人女性医療ネットワーク理事/女性医療ジャーナリスト)

投稿:2021年08月17日